大変お世話になっております。
反逆する武士
uematu tubasaです。
初回投稿日時:2019年10月10日(令和元年10月10日)
先日発売されました「MMT現代貨幣理論入門」において、「就業保証プログラム(Job Guarantee Program)」が提唱されております。
本日は簡潔に就業保証プログラムを説明し、具体例を挙げながら、日本経済における人手不足が解消すべきか否かについて論じていきたいと思います。
現代貨幣理論入門の就業保証プログラムとは何か
「就業保証プログラム(Job Guarantee Program)」 とは、就労意欲のある失業者に対して、仕事を提供する仕組みのことであり、完全雇用の達成を目的とした政策手段として位置付けられています。
就業保証プログラムは、働く用意と意欲がある適格な個人なら、誰でも職に就けるように政府が約束するプログラムである。
L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門 (Kindle の位置No.5996-5998). 東洋経済新報社. Kindle 版.
中央政府は、統一された時給を福利厚生と共に提供する共通プログラムに対して資金を拠出 する
失業者に職を提供するための資金は中央政府が拠出し、時給と共に福利厚生(社会保険や有給休暇など)も受けことができます。
中央政府は就業保証プログラムにおける統一基準賃金を定め、中央政府が引き上げることを議会で承認するまで固定されます。
※統一基準賃金は必ずしも現在の最低賃金である必要はないということに注意
就業保証プログラムにおける統一基準賃金よりも高い賃金を支払うことができれば、民間企業は就業保証プログラムから人材を引き抜くことができるので、民間企業の労働力獲得を公共機関が阻害しにくいという特徴がございます。
就労意欲がある者であれば、誰でも就業保証プログラムの仕事を引き受け、仕事ができるので、中央政府が決定した事実上の最低賃金として統一基準賃金は機能します。
仮に、民間企業において統一基準賃金よりも低い賃金を提示されたら、その民間企業での就業を拒否して、中央政府が用意した就業保証プログラムの仕事をすることになります。
東京都の最低賃金は1013円ですが、日本政府が就業保証プログラムを実現して、統一基準賃金を1500円にすれば、事実上の最低賃金は1500円になるということです。
※参考記事:東京都最低賃金を1,013円に引上げます
就業保証プログラムのメリット
就業保証プログラムのメリットは様々ございますが、私なりに3点ほどに集約させていただきました。
1、事実上の最低賃金を国会の議決で設定できる
2、失業による機会損失が最小化する
3、景気の自動調節機能としての役割を果たせる
1について説明します。
我が国日本の最低賃金は立法府の意見だけでは決まりません。
最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成される最低賃金審議会において議論の上、都道府県労働局長が決定しています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_saiteichingin_02.html
具体的には、中央最低賃金審議会から示される引上げ額の目安を参考にしながら、各都道府県の地方最低賃金審議会での地域の実情を踏まえた審議・答申を得た後、異議申出に関する手続きを経て、都道府県労働局長により決定されます。
最低賃金は公益代表、労働者代表、使用者代表の委員で構成された最低賃金審議会において議論の上、都道府県労働局長が決定しており、一方的な意見で決定されているわけではございません。
言い換えるならば、政府の意向だけで決められるわけではないですし、労働者の意見だけで決められませんし、企業経営者だけで決めることができません。
したがって、最低賃金を可能な限り早急に引き上げるのであれば、就業保証プログラムの統一基準賃金を現在の最低賃金水準よりも高く設定すればいいということになります。
事実上の最低賃金を経営者の意見に左右されずに行えるというのはメリットなのではないかと思います。
2について説明します。
私も新卒での就職に失敗しましたし、就職の後に失業したことがございます。
ご経験がある方ならば、ご理解いただけると思いますが、失業による手続きや所得を得られない期間が存在するというのは機会損失と言えます。
また、就業していない期間に行われるはずだったOn the Job Training(現場での職能訓練)を受けることができなくなります。
労働者としての技能に大きく関わるところであり、生涯に得られる所得が大きく変動する可能性もございます。
所得が得られない期間が無くなり、失業による機会損失を最小化することができるので、大きなメリットがあると言えます。
3について説明します。
不況期(恐慌期)においては失業者が多くなるため、就業保証プログラムに参加する人が多くなります。
好況期(景気回復期)においては民間企業の人材獲得意欲が高まるので、就業保証プログラムからの人材引き抜きが多くなります。
したがって、就業保証プログラムはある意味セーフティネットとして機能しますし、好況期(景気回復期)においては就業保証プログラムによる統一基準賃金の支払いが少なくなるので、政府支出が自動的に少なくなります。
就業保証プログラムが景気の自動調節機能を持つことになり、過度なインフレを抑制しつつ、失業による景気の冷え込みも抑制することができます。
就業保証プログラムのデメリット
就業保証プログラムにはデメリットもございます。
以下において簡単にまとめさせていただきます。
1、就業意欲がある日本国民すべてに仕事を提供するのが困難
2、民間企業の事業を圧迫するのではないか
3、中小零細企業の離職を誘発するのではないか
1に関して説明します。
簡潔に言えば、就業意欲がある日本国民が200万人ほど存在すると仮定するのであれば、仕事を望むだけ与えることができるのでしょうか。
仮に、就業保証プログラムにおいて、こども食堂での食事の提供事業を行うとします。
「子ども食堂」とは、主に貧困家庭の子どものために月に数回などの頻度で、無償か廉価で食事を提供する活動のことだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55204
地域や団体によっても、NPOだったりボランティア団体だったり企業だったりと、実施主体は異なる。
また、食事や居場所作りに力を入れていたり、学習支援などと連携していたり、それぞれの団体等の特色を生かしたものも多い。
「子ども食堂」の活動は2012年ごろから徐々に始まったと言われている。
対象とする子どもたちも、必ずしも貧困家庭に限らず、比較的ゆるやかに受け入れているところも多い。
子どもの貧困対策というイメージも強いが、地域の拠点としての機能をもつこともある。
運営費等は多くの場合で、ボランティアや寄付(手弁当の団体もある)と言われている。
企業や民間団体の助成を受けたり、地方自治体等が予算を組んで財政的に支援しているところもある。
果たして、200万人にこども食堂での食事提供という仕事を与えられますでしょうか。
食事を提供する場所、食材、衛星管理、献立などを整備して、全国展開するならば、すぐには難しいのではないでしょうか。
こども食堂での食事提供だけでなく、複数の職種で就業保証プログラムを実施する場合も同様です。
我が国日本において、就労意欲のある失業者全員に仕事を提供することがそもそもできるのか難しいですし、好況期(景気回復期)に人材が引き抜かれた場合、就業保証プログラムが機能しなくなるというリスクもあるのではないでしょうか。
例えば、こども食堂での食事提供において、調理師免許を持った人間が、大手ファミレスチェーン店に引き抜かれたら、そもそも食事を作る人が大幅に不足してしまうということもあり得るのではないでしょうか。
その人材がいないと事業が滞るということになる可能性がございます。
就業保証プログラムの継続性に疑義が出てしまいます。
2について説明します。
就業保証プログラムで何らかの事業を行う場合において、民間企業において同様の事業を行っている場合、その民間企業の業績に悪影響が出てしまう可能性がございます。
仮に、高齢者向けの食事の提供及び宅配サービスを行っている民間企業が存在したとします。
就業保証プログラムにて、高齢者向けの食事宅配サービスを行う場合、民間企業と競合してしまいます。
いわゆる民需圧迫ということになってしまい、できるだけ避けるべき政府の介入となります。
就業保証プログラムはそういった民需圧迫を誘発するのではないでしょうか。
この場合、就業保証プログラムの事業内容を非営利事業で、民間企業とできるだけ競合しないようにする必要があります。
3について説明します。
就業保証プログラムの統一基準賃金を現在の最低賃金よりも高めに設定した場合、現在の最低賃金水準で雇用している企業(おそらく中小零細企業でなおかつ人手不足企業が多い)から離職する可能性がございます。
さて、勘のいい読者の皆様はこの記事の意図するところはご理解いただけますね?
就業保証プログラムによって、人手不足は解消しないどころか悪化する可能性があり、民間企業の自主廃業の理由に就業保証プログラムが挙げられる可能性もございます。
就業保証プログラムで人手不足を解消するならば
私は人手不足は解決しなくていいと思います。
待遇改善と高賃金を提示しなければ、人手不足で会社が潰れてしまうというのはマクロ的には良いことです。
もちろん、大規模財政出動によってデフレ経済から脱却できたらという前提ですが・・・。
就業保証プログラムで人手不足を解消するならば、賃金は中央政府がすべて拠出して、民間企業の人手が足らないところに人員を配置すればいいと思います。
ただ、深刻なモラルハザードが発生するでしょう。
賃金が安く、待遇が悪く、仕事内容が劣悪な人手不足企業の従業員ほど中央政府から賃金が支給されるため、超絶ブラック企業ほどコスト削減することができてしまいます。
就業保証プログラムがブラック企業を延命させるための公共事業になってしまう可能性がございます。
どう考えてもそれは避けなければなりません。
就業保証プログラムを実現するならブラック企業を一掃しよう
本当に就業保証プログラムを実現するのであれば、人手不足企業やブラック企業を日本経済から一掃するぐらいの気概でやり切るしかありません。
そのような場合、失業者が多く出現しますが、失業者を救うための就業保証プログラムですので、労働者の損失は最小化され、人手不足企業やブラック企業の経営者だけが苦しむことになります。
人手不足企業やブラック企業の経営者には、倒産や廃業の際に心を入れ替えていただき、ホワイト企業を立ち上げていただき、就業保証プログラムから人材を引き抜くぐらい頑張ってもらうしかありません。
就業保証プログラムの具体的なプランが見えない
最後になりますが、就業保証プログラムの具体的なプランが見えてこないため、私個人としてはあまり賛成できないというのが本音です。
読者の皆様に伺います。
1、就業保証プログラムの統一基準賃金はいくらが妥当か(その根拠も含めて)
2、就業保証プログラムで具体的にどのような仕事を用意すればいいのか(その理由も含め)
3、就業保証プログラムで具備されるべき条件・待遇は他にあるのか
ご意見いただけませんでしょうか。
以上です。
確かに現在の社会構造の上で考えると、就業保障プログラムは一見、行き過ぎのようにも思えるかもしれません。
この問題を考えるにあたっては、憲法25条の生存権を無視できないと思います。
憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」とは、どこら辺でしょうか?
明白な答えはないと思いますが、目安としては、
受刑者<無職<最低賃金労働
という構図が成り立つべきだと思います。
無職であっても、犯罪を犯した者よりは人間らしい生活ができて然るべきだし、その上で働きたいという者は無職よりいい生活ができて然るべきでしょう。
ただ、今の社会では
・受刑者が優遇されすぎ
・少し働いたら生活保護は打ち切られてしまう(かといって求職するそぶりは見せないとこれもまた打ち切り)
・最低賃金が安すぎ
という問題があります。
最低賃金については、思い切って大幅に値上げ(例えば2000円とか)して、中小企業、人手不足の企業は補助金を大量に投入して構わないでしょう。
生産性は低くても、ボランティア的な活動を就業保障プログラムとして公金から捻出するというのは私は賛成です。
現在の日本経済は、デフレギャップという膨大な隠れ財産があるので、少なくともある程度はできると確信します。
しかし、いくらデフレギャップが膨大といっても、就業保障にかかる費用もまた膨大になるので、それがどの程度なのか、具体的な計算まではできません(この事はベーシックインカムも同様ですが)。
いずれにせよ、デフレギャップという財産を腐らせてしまっているのが最大の問題なので、それを活用してくれるなら、何であっても賛成します。
旅丘様へ
コメントをいただき、誠にありがとうございます。
>>最低賃金については、思い切って大幅に値上げ(例えば2000円とか)して、中小企業、人手不足の企業は補助金を大量に投入して構わないでしょう。
最低賃金としての統一基準賃金を大幅に引き上げる点に関しては賛成するのですが、人手不足企業に補助金を大量投入するというのには賛成できません。
生産性が低く、人材を集められず、定着させることができない企業を延命させるよりも、企業の合併に補助金を投入し、規模拡大を後押しするべきではないでしょうか。
私個人が見てきたIT業界を例にお話すると、IT企業においては社員数50名以下の中小零細企業が多く存在しています。
そういった企業は規模が小さく、生産性が低いため、他企業との競争にどうしても勝ちにくいという側面があり、その結果、福利厚生が薄く、給料も少ないところが多いです。
であるならば、企業合併を後押しすることで、IT企業で200名規模の会社がどんどん生まれれば、他企業との競争に勝ちやすくなり、ITシステム納入の際の価格交渉力が強化されるのではないでしょうか。
以上です。
今後ともよろしくお願い致します。
お邪魔いたしますです。
コメントを書いては消して…。せっかく考えたから残すことにしましたです。
1.「+一定額」
地域間の格差が有るので、地方だとJGPに人が群がっちゃうです。最低賃金+一定額が現実的だと思うです。
「同一労働同一賃金」に乗っかって、職種ごとに相場+一定額。賃金が低い業種を狙い撃ちにするのが理想だとは思います。
2.「NPO」
シルバー人材センターは手本になるのではと考えてます。見当違いな気もしてますが。
人材派遣ではなく「請負」って区分になるかと思います。産休やインフルエンザなどの超短期派遣に広げてニッチを狙ったら良さそうに思うです。
民間なら仕事が入らなかった日は休みで無給なのでしょうが、JGPなら訓練とか学習に充ててスキルアップも可能なのではと思います。
3.「復帰」
JGPから引き抜かれても復帰できるのは最低条件かなって思うです。時給を天秤に掛けて行ったり来たりは民業圧迫になるかもです。でも、ミスマッチの場合は復帰が出来ないとですよね。
黄昏のタロ様へ
コメントをいただき、誠にありがとうございます。
地域間の最低賃金格差があるので、その地域の最低賃金に一定額を上乗せするというのは現実案として有りですね。
さらに言えば、JGPで職業訓練、プログラミング学習、資格取得講座受講なども有りと考えます。
※その場合、就業保証プログラムでは無くなるという批判は巻き起こりそうですが(‘ω’)
シルバー人材センターについて調べたところ、多種多様な仕事を請け負っているようです。
地方自治体がこういった公的な組織を立ち上げて、JGPに登録した人材を派遣するのであれば、上手く運用できるかもしれません。
民間企業への復帰に関しては、総合判断になると思います。
賃金や給料だけでは復帰を決めることはないでしょう。
仕事内容や福利厚生も考慮することになると思います。
例えば、時給に関しては民間企業の方が高いけれども、仕事内容が厳し過ぎて、
JGPに登録して働く方が楽と日本人が判断することもあり得るでしょう。
ブラック企業を一掃する程度の民業圧迫であれば、長期的には日本経済にとってプラスになるのではないかと思います。
以上です。
今後ともよろしくお願い致します。