2019年4月より、働き方改革関連法案が順次、施行されているようです。
働き方改革に向けて、施行前より企業などは対応をしているところもあるようです。
しかし……2年前の2017年と比べて長時間労働は、微減にとどまっているとのこと。
参照:働き方改革でも“長時間労働”ほぼ変わらず、工夫なしも4割弱 2019.8.24
施行された今だからこそ、長時間労働が解消されない原因を解明します。また働き方改革と長時間労働の関係性についても、解説していきます。
働き方改革とは?おさらいしましょう
働き方改革の主要項目は、8つあります。
- 残業時間の「罰則付き上限規制」
- 5日間の「有給休暇取得」の義務化
- 「勤務間インターバル制度」の努力義務
- 「割増賃金率」の中小企業猶予措置廃止
- 「産業医」の機能を強化(事業主の労働時間把握義務含む)
- 「同一労働・同一賃金の原則」の適用
- 「高度プロフェッショナル制度」の創設
- 「3ヶ月のフレックスタイム制」が可能に
わかりにくいものだけ、端的に解説します。
勤務間インターバル制度
就業時間から、次の始業時間までの休息時間のこと。労働者の睡眠時間や、生活時間を確保することで、健康な生活を送ってもらうことが本旨。
「割増賃金率」の中小企業猶予措置廃止
産業時間が60時間以上になると、賃金の割増を50%以上にしなければならない制度は、中小企業には猶予されていた。その制度の廃止。
高度プロフェッショナル制度
年収1075万円以上の、専門性の高い労働者との任意契約によって、労働時間規制や残業代が適用されない制度。
働き方改革の理念とは?
首相官邸の働き方改革のページを見ると、以下のように書かれています。
働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
働き方改革の実現 | 首相官邸ホームページ
……本当に? 長時間労働やワーキングプア、貧困が働き方改革で改善されるの?
本稿では長時間労働に視点を当てます。
まずは制度と現実の関係性を理解し、その後に長時間労働の原因を探っていきましょう。
制度は大切だが、実現できる環境も大切
制度というルールを作る、ないし改善することは大切です。
余談ですが、規制緩和とは「制度を変える」ことであり、必ずしも良い影響があるものではありません。
むしろデフレ下の日本では、悪い影響が顕著です。
制度が改悪されても、規制緩和という「印象の言葉」で進められているのが現状です。
閑話休題。
ドイツの歴史学派の経済学者、フリードリッヒ・リストは制度経済学の祖とされます。
端的に内容をいえば「分業が進んだ経済は、制度によって結合されている」というもの。制度が、経済に対して影響を与えるというわけです。
規制緩和がデフレ下で、悪い影響が多いのもうなずけます。
参照:経済と国民 フリードリヒ・リストに学ぶ 中野剛志
では長時間労働は、働き方改革という”制度”のみで改善可能でしょうか? かなり疑問です。
なぜなら、働き方改革という”制度”は長時間労働の理由解消には、ならないのではないか? と思うからです。
長時間労働の「本当の原因」はなにか?
長時間労働の、本当の原因は何でしょう? 長時間労働を論じる際に、必ず「生産性」という言葉に突き当たります。
「日本は生産性が低いから、長時間労働をせざるを得ないのだ!」という言説です。
- 設備の更新や新技術の導入による、効率化および生産性の向上
- 人件費コストの削減による、効率化および生産性の向上
- 付加価値の上昇による、生産性の向上
じつは1.と2.は本質的には一緒です。どちらも「効率化」です。人件費か投資か? という違いはありますが。
2人必要だった作業が1人でよくなるか、2人分の給与をそれぞれ、2分の1にするかだけの話です。
※ただし、1.には「投資」が含まれ、新たな需要を生み出しますので1.は社会全体ではプラスになります。2.が日本で横行する、生産性の向上です。
3.が最も日本に必要なものです。そして「付加価値の上昇」は「商品開発etc」だけでなく「需要の増大」でも起こります。
需要の増大で供給が追いつかなければ、当然ながら「同じ商品でも、高く売れる」というわけ。
以上を踏まえて、生産性向上に「本当に必要なもの」を見ていきます。
世界では「最低賃金のアップが、生産性を向上させる」がスタンダードに
最低賃金アップで「生産性が向上する」仕組み(東洋経済)によれば、「生産性が向上するから、賃金が上がる」という因果関係は「否定されつつある」のです。
むしろ逆で「最低賃金をあげたから、生産性が上がる」のだそうです。
これは海外の大学ではすでに「徹底的に、統計的に解明された事実」だそうです。
実際にイギリスは、20年間に渡り持続的に最低賃金を引き上げてきました。しかし倒産・失業率の上昇はなかったのです。
上述記事では、イギリスの最低賃金と生産性の向上のみ論じてますが、全体論的に整理してみます。
- イギリスの国債残高は2001年から現在で約6倍弱に増加
- イギリスの公共事業費も2倍強に増加
- 上記の環境で最低賃金を、政府主導で持続的に引き上げ
参照
イギリスの政府債務残高の推移 – 世界経済のネタ帳
先進国で唯一公共事業を減らす日本の不見識 インフラ認識と都市城壁・その1 WEDGE Infinity(ウェッジ)
OECDの「男性の1日あたりの労働時間(休日含む)」から、週休2日制に計算し直してイギリスと日本を比較すると……イギリス6時間/日、日本9時間弱/日となります。
参照:日本の労働時間は世界に比べて長い?短い?本当の問題点とは | 働き方改革ラボ
しかし1人あたりの名目GDPおよびGINで、日本とイギリスはほとんど差がありません。
※1人あたりの名目GDPでは、むしろイギリスのほうが上
参照:GDPと1人当たりGNIのランキング・国別順位、2017年
長時間労働の解消には、何が必要か? 見えてきたのではないでしょうか。
緊縮財政と長時間労働の関係性
イギリスは過去20年間で「政府支出を増やし、公共事業費を2倍にし、持続的に最低賃金をあげ続けた」からこそ、日本の1.5倍程度の”生産性”を実現したのです。
一日(たった!)6時間の労働で、9時間働く日本人と「同じだけのもの」を生産しているともいえます。
逆説的に、なぜ日本が長時間労働なのか? 根底には緊縮財政があると考えるほうが、自然です。
- 政府が緊縮財政で、国土に投資しないので、需要も増えないし、付加価値がつきにくい
- したがって企業も投資を控える
- つまり人件費の削減でしか、生産性の向上を実現できない
- サービス残業や長時間労働の蔓延となる
日本政府は「働き方改革で、長時間労働是正!」といいつつ、一方で「現実の政策では、国民に長時間労働を強いる環境(緊縮財政)を進めている」です!
まるで太平洋戦争の、大本営的発想の働き方改革
工夫というのは、下部構造(土台)のキャパシティーでしか無理です。キャパシティー以上の工夫は、不可能です。
いくら古いパソコンを最適化しても、最適化してない新しいパソコンにはかないませんでしょ?
緊縮財政路線から政府が転換しない限り、長時間労働は是正されないのです。
かつての戦中、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ!」という標語がありました。旧日本軍の「下に押し付ける発想」です。
しかし現状の働き方改革と長時間労働を見る限り、この日本の悪しき伝統は「全く変わらない」ようです。
真の長時間労働是正のための、働き方改革素案
すでに解説してきたとおり、イギリスとの比較で「長時間労働の真の原因」が解明されました。
あとは簡単。その原因への対策をすればよいだけです。
- 政府支出による総需要政策(機能的財政論)とデフレ脱却
- 公共投資で国土全体の下部構造の強化と生産性向上
- 政府主導による、最低賃金の持続的な上昇の確約と実現
- 制度の改善による、長時間労働の是正
上記のように提案すると、いくつかの反論が来ることでしょう。
- 政府による、民間資金の圧迫(クラウディング・アウト)
- 国際競争力を毀損するのではないか?
- クニノシャッキンガー!
まず1.のクラウディング・アウトですが、起こりません。主流派経済学の外生的貨幣供給論では「起こることになっている」のですが……フィクションです。
現代貨幣理論(MMT)による、信用創造の仕組みからは「ありえない」のです。
参照
信用創造とは?わかりやすく図解で解説 イングランド銀行公式見解も参照
信用創造とは?わかりやすく信用創造を初心者向けに解説
2.の国際競争力の低下についても、全く心配がありません。国際競争力の維持の仕方は、2つあります。
- 人件費を削って、価格を安くする
- イノベーションによる、付加価値の増加
イノベーションは投資から生まれます。したがって、企業の投資意欲を誘発する経済環境が必要です。つまり「売上見通しのたつ環境」です。
国内景気が活発化すれば、投資も活発化します。イノベーションも、起きやすくなります。
むしろ……デフレ下の日本で「イノベーションが、ほとんど起きていないこと」こそ、注目するべきでしょう。
参照:創造的破壊とは?誤用され誤解される創造的破壊とイノベーション
3.の「クニノシャッキンガー」については、割愛します(笑) 【まとめ】現代貨幣理論(MMT)とは?全体像をわかりやすく解説をご参照ください。
あとがき
生産性とは「需要が増大すると付加価値が増加し、向上する」という「ごく簡単な結論」が、なぜ今まで言語化が出来なかったのか?
私もまた「自営業の肌感覚」と「経済全体の現実理論」の、合成の誤謬に陥っていたのかもしれません。
生産性の向上(付加価値要素)=インフレギャップの経済循環
上記のように、定義しても良いと思います。需要に対して商品が少なければ(需要>供給)、付加価値はそれだけで上昇するのですから。
主流派経済学が賢しげに使用する「生産性の向上」を、オンデマンドサイドから言語化を出来ました。
後日、生産性の向上にテーマを絞って書きたいと思います。
操作ミスで低い評価をつけてしまいました。
私の評価は5つ星です。
大丈夫ですよ~。……この星、やり直し出来ませんしね(笑)
私も、自分の記事に3を間違えて押したことがあります(笑)
ジャパンアズナンバーワンの頃も長時間労働があたり前で現役時代はそれに疑問は持たなかったのだが、働き方改革のお陰で朝7時に出勤し、午後3時に帰っている。痛勤はない、座っている。自分の時間も増えたし、帰宅前に一杯もなくなった。夜も早く就寝し、早朝に起き、朝風呂に浸かって出勤する。そして月半分はクリュッグを飲みながら海外出張の日々である。61歳非正規嘱託の持つ自由なのだと思うが、なぜ現役に出来ないのか?緊縮財政のせいなのか?実は世界やマーケットで戦える専門性やアイデアがないから組織に依存せざるを得ず枠から飛び出ることが出来ないのかなと現場にいる人間としては思う。加えて失敗を怖がるのだ。怖がらない若者は会社から出ていく。残りは学校の成績だけは良かった社内政治家ばかりとなっている。働き方改革の前に教育改革が急務なのだと思う、ただそうも言っておられず、ミクロからのアプローチとして若者を無理やり海外に押し出し目を開かせるのが、半分自分の仕事になっている。
大変興味深いコメントです。
若者が失敗を怖がるのは、マクロ的には「普通」の現象かと思います。
デフレが続いて20年以上になりますが、失敗をしてもリカバリーできるだけの余裕が、社会からなくなってきたのでは? と感じます。
経験を積むには失敗が一番ですが、その失敗が命取りになりかねない、という状況だと「若者は本能で、感じている」のではないかな、と思っています。
※実際に20年前の若者より、現在の若者のほうが真面目な印象を受けます。……ええ、私は不真面目な若者でした(笑)
私は自営業16年目(23歳で起業)ですが、若い人が自営業をしたいというとむしろ、止める方です(笑)
「やめとき、今の時代は正社員にしがみついたほうが絶対ええで。自営業なんて10年以内に9割潰れる。最後は借金して終わりやで」
ただ、海外で「日本と異なる価値観に触れる」という経験は良いことなのでしょうね。