
今回はあまりに誤解が大きいトピックを取り上げます。
MMTが紹介されるときに、「日本がMMTの正しさを証明している」と言われることがあります。
焦点:財政拡大理論「MMT」、理想の地は日本か
https://jp.reuters.com/article/mmt-japan-idJPKCN1QP072
日本は「トンデモ経済理論」MMTの成功例か
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56283
「日本では既にMMTが実践されている!」といった風潮です。
中には『提唱者のステファニー・ケルトン米ニューヨーク州立大教授が「日本はMMTを実践してきた」』といった論説もあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO45512980R30C19A5KE8000/
このような風潮に対し、当のケルトン教授本人は苦言を呈しています。
(和訳:記者たちは日本について言及させようと接触し続けてくる。ランダル・レイと私は繰り返し「日本は主流派経済学の誤りを証明している。しかし、日本の政策はMMTとは真逆のものだ」と答えている。
いつか、誰かが「日本はMMTを実践してる」なんて言わないで、ちゃんと報じてくれますかね。)
このように、MMTは「日本はMMTを実践している」とは主張していません。その逆です。
むしろ、「日本は主流派経済学の誤りを証明している」と主張しています。
主流派経済学は日本で起きた以下の事例を説明できません。
- 巨大財政赤字の状態を維持している。
- 持続的な巨大財政赤字なのにインフレが起きない。
- 政府債務残高(対GDP比)が世界一高いのに、国債利回りは低いまま。
- 国債発行残高が積み上がっても、金利が上昇するはずが、逆に下落している。
- 量的緩和でインフレが起きるはずが、全く起きていない。
一方、MMTは日本の事例を説明することができます。
- 健全な政府において財政赤字は普通の状態。
- 日本の財政赤字はインフレ率に対して少なすぎる。
- 自国通貨建ての政府債務で財政破綻することはありえない。
- 国債発行残高と金利は関係がない。政府支出は金利低下を招く。
- 量的緩和をしても、民間部門の貨幣が増えるわけではないためインフレは起きない。
MMTに言わせれば、日本の政策で財政破綻や金利の上昇、インフレ率上昇ならびにデフレ脱却が起きないのは当然なのです。ありもしない財政破綻に怯え、政府支出を拡大するどころか、消費増税をはじめとする緊縮財政で国民の資産を奪いとっているのですから。
つまり「日本がMMTの正しさを証明している」というのは、MMTを実践した良い例ではなく、主流派経済学では説明できない例として、日本の事例を紹介しているのです。
これは決して喜ばしいことではありません。
本当に「MMTを実践する」のなら、マイルドインフレになるまで財政赤字を拡大しなければなりません。
また量的緩和は行ってもいいですが、大した効果はないので期待してはいけません。
そして、国債発行残高は気にするべきではないのです。それは財政破綻にも金利やインフレの上昇にも結びつかない、ただの過去の記録に過ぎないのですから。
記事の内容、私も前から思っていたことでした。日本はMMT的な貨幣観を理解し、それに基づいて最良の政策を採り続けているというわけでは決してありません。さすがに「日本に倣え」とまでは言われないでしょうけれど、日本がMMTを実践しているというのは大きな誤解ですよね。
[…] 最後に。ケルトン教授は写真で見るよりも美人でした。 […]