昨今のエネルギー価格高騰や食料品・資材の値上がりから、消費の現場で体感するインフレはかなり厳しいですね。
2月の消費者物価指数を見ると、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)」こそ▲1.0%と相変わらずのデフレ基調ですが、「総合」+0.9%、「生鮮食品を除く総合」+0.6となっており、国民が直面するインフレ実感が数値に表れています。
コアコアCPIはマイナス値を示していますが、指標となる項目の動きをざっと見てみると、目立って下がっているのは「家庭用耐久財」▲3.4%や「通信」▲33.8%、「家庭用教養娯楽費」▲1.2%くらいで、あとは軒並み価格上昇傾向にあります。
我々の生活費で大きな割合を占めるエネルギー費は、「電気代」+19.7%、「都市ガス」+22.9%、「プロパンガス」+6.9%、「灯油」+33.5%、「ガソリン」+22.2%と目玉が飛び出るほどの高騰ぶりですし、食料品も「生鮮魚介」+12.4%、「生鮮野菜」+7.5%、「肉類」+2.2%と価格上昇の勢いが止まる気配がありません。
最近、私もスーパーに買い物に行ったり、チラシを見て感じるのですが、以前のように“先着●名様、たまご1パック100円。もやし1袋5円”といった思い切った安売りや特売品がほとんどなくなりましたよね。
そもそもBtoBの流通価格が高止まりしたままですから、流通サイドも客寄せの特売品をひねり出す体力を奪われ、消費者として工夫や努力で安く買い物できるチャンス自体が無くなってしまいました。
国民は、四半世紀もの間給料ベースがまったく上がらないどころか、ピーク比で7%以上も年収が減るという経済的災禍に見舞われ、消費力は青息吐息の状態ですが、そういった惨状下で消費税増税や社会保険料負担増が重なり、さらに“値上げの嵐”の襲来を受け、消費の現場は破綻寸前でしょう。
マスメディアや雑誌でも、「値上げの春」だの「インフレ直撃」だのとセンセーショナルに騒ぎ立ててはいますが、彼らが何を言うかといえば、結局、「必殺の家計節約術大公開!〇〇費を削れ!」か、「貯金なんて昭和かよ(笑)令和時代の資産運用は投資が主役やで!」といったミスリードでお茶を濁すのが関の山ですよね。
30年不況に苦しめられてきた日本の家計には、もう削るべき費目なんて残っていませんし、たかが年収300万円しかないのに投資に手を出しても、大したリターンは望めません。
年収300万円なら、日本中のどこに住んでいても生活はカツカツなはずで、どんなに頑張って投資費用を捻出できたとしても、せいぜい30万円くらいがいいところでしょう。
それを投資に廻し、年率10%の運用に成功したとしても、その収益たるやわずか3万円に過ぎません。
こんなもので生活物資の急騰に対抗できるはずもなく、値上げの嵐に一発で吹っ飛ばされて即終了です。
先日報じられた岸田政権による年金生活者宛ての5千円給付案(しかも1回だけ…)もそうですが、経済苦に直面する多くの国民への支援策として、なぜ、“靴の上から足を搔く”ようなバカバカしい対策しか出てこないのでしょうか?
昨今の生活物資や必需品に関する価格高騰問題の根源は、世界的な原料や資源、資材、食糧などのインフレ速度について行けない我が国の消費力の弱体化にあります。
モノやサービスの価格なんてものは、長期スパンでみれば右肩上がりに上昇するのが常態であり、肝心なのは、そのスピードを国内の生産力や供給力で制御可能なレベルに抑え続けること、つまり、名目収入(年収)と物資のインフレ率とのバランスを取り実質収入を常に上げ続ける舵取りこそが経済財政策の要なのです。
我が国の場合は、まず入り口となる名目収入の絶対値が低過ぎます。
いまから四半世紀も昔の1997年の平均年収が467万円だったのに、それが倍増するどころか、最近データでは430-440万円レベルと逆に減っており、本当にあり得ない異常事態というか、こうした趣味の悪い罰ゲームを唯々諾々と受け容れている国民が存在すること自体に怖気がします。
この名目収入を目に見える形で、せめて800-900万円台レベルに増やしてあげないと、諸物価高騰の勢いに負けて実質収入を満足のいくレベルに押し上げることはできません。
土台となる年収レベルがあまりにも低過ぎると、いくら税や社保料負担を軽減したところで、そこから捻出できる消費余力(実質収入増加分)はたかが知れています。
まずは名目収入のレベルを思い切って引き上げ、それと同時に、そこから税や社保料等のムダな負担へと漏出する額を減らしていけば、国民の消費余力は劇的に上がり、消費の選択肢も増えますし、インフレ耐性も強靭化されるでしょう。
ここで必要なのは、大規模かつ長期にわたる積極財政策による「聖域なきバラマキ」です。
私は以前から、
①通常予算の政策経費の大幅な増額(少なくとも現行の+30%以上)による「政→民」への資金供与
②「民(企業)→民(労働者)」への資金流量を増やすための税制改正や世論醸成
③継続型BI(月3-4万円/人) による名目収入増加策の実行(過去の経済失政による逸失所得の補填)
④消費税を始め生活物資に掛かる諸税の廃止
⑤社会保険料負担の全額国庫負担化
⑥公共料金の半額国庫負担化
といった“遍く広く分厚いバラマキ政策”を提案していますが、上記の③-⑥を実行しても、年収300万円レベルだと、年間の収入増加は最大限見積もっても120-130万円にしかなりません(単身世帯の場合)から、これを800-900万円レベルに押し上げるには、①②をかなり強力に推し進める必要があるでしょう。
あるいは、BIの支給額をさらに増やすしかありません。
まぁ、口先では積極財政論を唱えながら、なぜかBIにだけ感情的な嫌悪感を示す合理性ゼロな輩もいますから、こうした提案は少なからずハレーションを巻き起こすのは間違いありません。
ですが、国民が直面する消費力低下は相当深刻なレベルにあり、土俵際に追い詰められているというか、もはや片足が土俵を割っていると言ってもよいかもしれません。
世界経済が成長を続けている以上、我が国がチマチマとした工夫や努力に汗を流したり、節約術を弄したりしたところで、グローバルなインフレの潮流が止まることはありません。
世界のスピードに追い付き追い越すくらいの勢いと気概を以って、国民の収入を短期間で名実ともに増やしていかないと、容赦なく押し寄せるインフレの波に抗うことはできないでしょう。
「国民の収入を名実ともに、目に見える形で、スピード感を以って増やす政策」
これこそが令和時代の主流となる経済政策なのです。