政府がカネを惜しまないことが最大の防災対策

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読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。

本年が皆様にとって実りある一年となりますよう、祈念申し上げます。

さて、新年早々に憂鬱なお話で恐縮ですが、先月21日に内閣府から、日本海溝や千島海溝を震源とする巨大地震発生に伴う被害想定のシミュレーションが公表されました。

その内容は、「夏・昼」、「冬・夕」、「冬・深夜」の3パターンで建造物や人的被害を想定したもので、「日本海溝モデル・冬・深夜」という最悪のケースでは、建物全壊・消失約22万棟、死者約19.9万人と、その被疑規模は東日本大震災の10倍近くにも及びます。

まさに、未曾有の大損害と呼ぶべき規模ですね。

『北海道・東北沖M9以上の地震、最大19万9千人死亡 内閣府想定』
https://www.asahi.com/articles/ASPDP2C5JPDKUTIL032.html?oai=ASPDP5F37PDNULBJ01D&ref=yahoo
「内閣府は21日、北海道から東北の太平洋沖で発生が予想される最大級の地震による被害想定を公表した。マグニチュード(M)9クラスの地震の後に発生する津波で、最悪の場合、19万9千人が死亡する。被害の規模は死者・行方不明者が2万人を超えた東日本大震災をはるかに上回る。(略)ただ、どちらの地震も、避難の迅速化▽津波避難タワーなどの活用・整備▽建物の耐震化率の向上――などを講じれば、死者は約8割減らせると指摘。「今回の被害想定を踏まえ、行政のみならず、企業、地域、個人が対応できるよう備えが必要」とした。」

内閣府のWGが公表いた資料では、防災ソフト・ハード対策による8割程度の減災効果が謳われていますが、それでも死者数は4万人近くにも及び、東日本大震災の2倍にも上ります。
さらに、恐ろしいのは、19.9万人という死者のほぼ全てが津波によるものと想定されていること、19.9万人の7割近い13.7万人の死者が北海道に集中していることでしょう。
【参照先】
http://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/WG/index.html

今回の報道で感じたのは、これまでの防災対策関連報道といえば、避難訓練強化や住民個々人の防災意識向上、非常用食料の準備などといったソフト対策に偏ったものばかりでしたが、今回の被害想定が余りにもビッグインパクトだったせいか、津波避難タワー建設や耐震化率向上、避難用道路建造、防潮堤建造などハード整備の重要施にも言及している点です。

これはとても良い傾向でしょう。
防災対策はソフトとハードの有機的な連携を礎に構築されるべきものであり、どちらか一方のみでは意味がありません。
教育・訓練・備蓄・医療・救護といったソフト対策、堤防・道路・建造物・物資といったハード対策の双方を高レベルで両立させる必要があります。

今回の想定では、死者のほぼ全てが津波によるものという衝撃的な警鐘が鳴らされていますが、最大の被害を被ると予想される北海道のケースに当て嵌めてみると、津波が襲来する沿岸地域は、渡島・胆振・日高・十勝・釧路・根室地域と思われます。

それらのうち太平洋沿岸地域の居住人口は多めに見積もって約88万人と推計され、最大死者想定数13.7万人とは住民の15%強が死亡する、つまり6人に1人程度が津波に呑まれて死亡するという真に恐ろしい事態となります。

こうした沿岸地域では、ご多聞にもれず海岸線に並行して街区が形成され、主要道路や鉄道は海と並行して横向きに敷かれ、行政機関や工場、商業区、居住区、教育機関、防災機関など全てが海に近接した地域にあり、今回想定される20〜30m規模の巨大津波が襲来すればひとたまりもありません。

20mの津波といえば、ビル換算で7階建に相当する高さだそうですが、これらの地域で沿岸部に8階立て以上の高さのある建築物などほんの僅かしか無いのではないでしょうか。

また、海岸線沿いに横向きに走る道路は数多くあれども、津波被害を避け得る奥向き(山側)に伸びる道路は数少ないうえに奥行きが短すぎ、いざという時の避難路として不適格なものが多いようです。

来るべき大災害に備えたハード整備は急務であり、防潮堤や津波タワー建設、縦方向の避難道路建設、高規格道路建設、電柱地中化、重要機関の高台への移設などといった事業に国負担100%で予算をつけ、早急に取り掛かるべきです。
シャッター商店街や廃墟と化した幽霊ビルを丸ごと行政が買い取り、避難用施設や備蓄用食料や資材などの保管施設として再整備するのも一考に値します。

何よりも大切なのは、いざ災害が起きた時に、住民や事業者が避難に専念できる補償環境を整えてやることです。

震災発生から津波到達までの時間は10〜30分程度と想定されており、一早い避難行動が生死を分けることになります。
幸い、今回の試算では建物全壊棟数のうち96%は津波によるものとされており、裏を返せば地震の揺れそのもので倒壊する建物はごく一部に過ぎないということですから、揺れの途中であっても素早く避難を開始できれば、命を失うリスクを抑制できるはずです。

そのためには、震災に遭遇した地点から、安全な場所に1秒でも早く移動することが肝心ですが、それを邪魔するのが、財産や資産を惜しんでその場に留まろうとする心情です。

「家が惜しい」、「財産が惜しい」、「工場が心配だ」という気持ちは庶民や経営者として当然の心情ですが、それを振り払って即避難を実行できれば、死者数を極限まで抑えることができ、大切な命を一人でも多く救うことにつながります。

「地震発生=即避難」という行動を一般化するためには、「金や財産は惜しくない。後で全額国が補償してくれる。命を守るのが最優先だ」という信頼感や安心感を国民全員に与える必要があります。

いまも被災者生活再建支援制度や災害救助法などという制度がありますが、とても十分な額とは言えず、手続きも煩雑で、被災者に寄り添う制度ではありません。

被災者すべてに一人2500万円程度の災害補償金支給、住宅ローンなど各種負債の返済免除、事業者に対する事業再建資金全額補償を役所の手続き一発で素早く完了できる制度を整え、自然災害発生時に誰もが避難に専念でき、命を守る行動を最優先する体制を構築すれば、結果として災害救助に要する負担を軽減できますし、何よりも地球より重いとされる人命が数多く救われることにつながります。

人間が社会を構築する最大の目的は「安全かつ便利で幸福な生活を送ること」と「人命を様々なリスクから護ること」に他なりませんから、いくらでも製造でき誰の負債でもない貨幣を、何者にも変え難い価値を持つ人命の救助に対して惜しむことなくふんだんに投じるべきです。

貨幣で一人でも多くの命を救うことができるなら、カネの使い道として、これほど適切なものはないと断言できます。

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