NHKの「ニュースウオッチ9」を担当していた有馬嘉男キャスターや「クローズアップ現代プラス」の武田真一キャスターの人事異動について、政権側の圧力があったのではとささやかれている。だが、私には、2つの番組での報道内容は意図的にせよそうでないにせよ十分に政権の意向にそったものになっていたように見える。
間違った貨幣観に基づき菅政権の緊縮路線にそう報道を続けコロナ禍の国民殺しに加担した有馬キャスター
「ニュースウオッチ9」では有馬キャスターは、日本国債は100%自国通貨建のため財政破綻のリスクは無くインフレ率が許容範囲である限りは政府債務の増加は全く問題なく、米英など他国の政府債務も名目、実質とも建国以来現在に至るまで増え続けているという事実を無視し、コロナ禍の中でもいわゆる「国の借金」の増加を問題視するような発言をしていた。これはコロナショックや自然災害から国民を救うためにやらなければならない財政出動を財務省の省益などのために避けたい菅政権の意向に完全に合致している。
国民の雇用を不安定化させ竹中平蔵氏ら政商を儲けさせるという菅政権の企みに加担した武田キャスター
一方、「クローズアップ現代プラス」では最近、「コロナ失業 職業訓練は雇用を救えるか」というタイトルで、現在の職業訓練制度について紹介したり、非正規労働者に対する職業訓練の課題を取り上げたり、「コロナ禍の高校生 ルポ課題集中校 」では、コロナ禍の中での家庭環境など複雑な問題を抱える生徒が多く通う「課題集中校」の現状を取り上げていたが、内容はNHKお得意の問題意識は正しいものの解決策が的外れなものとなっていて、意図的ではないかもしれないが結果的に政権の意向にそうものとなっていた。
政府の財政出動による需要創出なしに職業訓練だけやっても雇用安定化はできない
職業訓練制度の充実自体は全く悪いことではないのだが、雇用確保において職業訓練以上に重要な政策に触れてないことが問題である。それは財政出動による需要創出である。どんな職業訓練よりも現場で長く働くことこそが一番効果的な人材育成であり、需要を政府が生み出すことで企業が即戦力にならない未経験者でも雇用してコストをかけて将来の戦力として育成するというような意欲をもてるようにすることが大事なのだ。それをせず、市場原理に任せているとある業界が衰退して失業者が出るというようなことが度々発生し、雇用が不安定化することは避けられない。そうなれば、衰退したA業界から成長が期待できるB業界に労働者を移動させようというようなはなしになり、職業訓練の関連業務を請け負う一部の企業のビジネスチャンスが増える一方で、短期間で他業界への労働力の移動が繰り返されていては十分な人材育成はできず国の経済力低下を招くし、全ての人がそう簡単に他の業界に移動できるわけではなく大多数の国民にとっては悪いことだ。
安全保障に関わる産業は市場に任せず政府が守らなければならない
また、国家の安全保障に関わる産業は市場原理に任せて衰退させるようなことは絶対にしてはいけない。その一つが造船業である。佐世保重工業は新造船事業を休止し、希望退職を募ると発表した。資源の輸入を海上輸送に依存していることや、尖閣諸島などでの中国の海洋進出の活発化を考えると我が国の安全保障上これは深刻な問題だ。本来、造船業界の人材流出を防ぐために海保や海自の艦船増強などの財政出動で長期的に安定した需要を確保するのが政府の責任である。雇用安定化に最も大事な政府による需要創出に全くふれず、職業訓練だけを取り上げるという報道は仮に意図的でないにしろ、需要創出より少ない支出で済む職業訓練だけやってお茶を濁し、さらに政権のブレーンである竹中平蔵パソナグループ会長などの総理周辺の政商達に職業訓練関連業務受注などのかたちで利益供与を図りたいという菅政権の意向に完全に合致している。
若者の困窮の責任の一端は自らの報道にもあるということに全く気づいてないNHK
課題集中校の問題はそもそも、ありもしない財政危機を煽る報道で必要な財政出動にさえ否定的な世論を形成したという意味ではNHKが原因を作ったという面もある。高校生が生活費のためにアルバイトをしなければならないとか家族の介護に追われるなどの問題は消費税廃止など親の所得を増やす財政政策や給付金や少ない自己負担による医療介護サービスなど福祉の充実で解決できる。また、虐待については児童相談所などの予算を増やし対応力を強化する必要がある。さらに、彼ら彼女らに卒業後にチャンスを与えられるように、需要創出により雇用の受け皿を増やしたり、大学や専門学校等の無償化と給付型奨学金により家庭の事情に関係なく意欲があれば進学できるようにするべきだ。もしもNHKが財政に関する正しい報道を行い、それにより世論の力で政府による必要な財政政策が実行されていれば課題集中校における問題の多くが改善できたはずだ。「コロナ禍の高校生 ルポ課題集中校 」も財政出動の必要性への言及を避けたという点において、意図的でないにしても緊縮路線や貧困ビジネスへの参入を目論む政商への利益供与など菅政権の意向に沿った内容に結果的になっていた。
経済問題でメディアが庶民に寄り添った報道をしなければ民主制は崩壊する
上記以外ではNHKは政権に厳しい報道をしていて、それで人事で圧力があったということも考えられなくもない。だが、人々の暮らしに直結する経済問題において庶民の立場に立たないような報道をやっていては国民を味方にすることは不可能である。それを放置し続ければ報道や言論の自由そして民主制が壊れていくのは避けられない。NHKに民主制を守る意思があるならば、正しい貨幣観と健全な共同体意識に基づいた報道をすべきだ。