先日、出張先の函館で朝食を食べながら(ビジホの朝食会場が中韓人だらけでげんなり…)地元紙を読んでいると、MMTを採り上げた記事が目に入りました。
『異端の理論日銀は警戒 物価急上昇なければ、財政赤字もOK 消費増税反対派が支持 黒田総裁「高インフレもたらす」』(北海道新聞)
「急激なインフレにならない限り財政赤字を拡大させても問題なく、財政破綻も起きない―。そんな「現代金融理論(MMT)」と呼ばれる経済理論が注目を集め、日銀や財務省が神経をとがらせている。巨額債務を容認するMMTが広がれば、財政健全化を目指した10月の消費増税への反対論が高まりかねないためだ。(略)
日本の国会では5月に入り、複数の議員がMMTを賛成、反対それぞれの立場から質問で取り上げた。(略)日銀が気にするのは、MMTが財政赤字のツケを中央銀行に回す「財政ファイナンス」を肯定している点だ。(略) ただ、日銀の金融政策に手詰まり感が漂う中、異端の理論に脚光が集まる。消費増税の見送りを唱えるエコノミストや国会議員の間にMMTへの支持は根強い。SMBC日興証券のチーフエコノミストの牧野潤一氏は「(経済再生には)民間の技術革新こそ重要なのに、財政や金融政策ですべて解決できるというのは間違い」と指摘する。」
ここ数か月というもの、マスコミがMMTを採り上げる機会はかなり増えています。
しかし、TVであれ、新聞であれ、MMT論争を報道する目的は、“検討”や“期待”ではなく、“罵倒”と“否定”でしかありません。
彼らは、「異端」、「暴論極論」、「打ち出の小槌」、「ハイパーインフレ」、「ブードゥー経済学」等々、積極財政論の品位を傷つけるためのレッテルを総動員して火消しに躍起になっています。
すでに自ブログでも何度か説明していますが、私自身はMMTに対して、
①税を財源とせぬ積極財政論で社会的課題解決を最優先する発想には大賛成
②根拠ゼロかつ非現実的な“貨幣負債論”と“租税貨幣論”のようなクズ理論は不支持
というスタンスを取っています。
マスコミの連中が、貨幣負債論の不合理性を起点にMMTを批判するのなら、彼らを応援するのも吝かではありませんが、あろうことか、MMTの主軸である積極財政論に噛みついている以上、同じ積極財政論者(私は、財政金融政策の積極論において、MMTより数段刺激性の強い“超タカ派”ですが…)としてMMTに加勢するしかありません。
北海道新聞の記事で紹介された黒田日銀総裁や財務省による、「MMT=積極財政策→ハイパーインフレ」なる妄言のくだらなさと非現実性については、これまで何度も指摘してきたので、あえてここでは繰り返しません。
【参照先】
我が国のみならず、先進諸国においてハイパーインフレを惹き起こすことなど、もはや不可能ですが、その程度のことにすら気づけない周回遅れぶりに、「お前の経済観念は、いまだに産業革命前夜なの?」と呆れるよりほかありません。
それはさておき、今回の記事で最も突っ込みを入れたかったのは、最後の一段落にある二つの文章です。
一つ目は、「日銀の金融政策に手詰まり感が漂う中、異端の理論に脚光が集まる」の部分です。
これを見た瞬間、「金融政策が手詰まりって、何を言ってるんだ? 本当に手詰まりなのは、ここ20年来、政・官・財・報・学・民による護衛船団がこぞってゴリ押ししてきた緊縮政策と構造改革主義の方だろっ‼」と思いましたよ。
平成不況下に経済政策を主導した自民・民主両政権は、いずれも、“緊縮主義こそ絶対善”という歪んだ危険思想に固執するあまり、財政健全化やワイズスペンディングの美名を盾に、財政政策を極度に毛嫌いし、歳出を絞り込んできました。
彼らが、財政政策を排除したまま経済対策に配慮するフリをするのに好都合だったのが「金融政策」でした。
金融政策(量的緩和)を行うと、数兆円~数十兆円という巨額なカネが動くため、一見、政府が精力的に経済対策をしているかのような演出が可能です。
しかし、動く金額こそ大きいものの、それらは直接的に企業の売上や家計の所得になるものではなく、融資や投資、つまり、返済義務を負った“借りるためのカネ”でしかありませんから、誰の腹を膨らますことはできませんでした。
誰もが欲する「収益や所得に化けるカネ」をバラ撒かず、誰も欲しがらない「借りて返さねばならないカネ(しかも、利息付きで…)」ばかりを増やして満足していたのが、金融政策一本足打法が一敗地にまみれた最大の原因です。
思えば金融政策も気の毒でした。
財政政策という一騎当千の強力な援軍さえあれば、 “平成景気”の立役者の一員として正当な評価を受け、手詰まりになどならずに済んだのに、と同情を禁じ得ません。
そして、もう一つ突っ込みたいのは、SMBC日興証券チーフエコノミスト 牧野氏の「(経済再生には)民間の技術革新こそ重要なのに、財政や金融政策ですべて解決できるというのは間違い」という間抜けなコメントです。
私は、積極財政論への批判コメントで、「財出でいくらばらまいても、所詮カネはカネ。ものづくりや技術革新とは別次元の話。バラマキではInternational competitionに勝ち抜けない」なんて青臭いセリフを聞かされるたびに、コイツは働いた経験のない幼稚園児かと小馬鹿にしています。
民間企業が“ヒト・モノ・カネ・時間”を投じて技術革新に取り組む動機は何か?
よく考えてみてほしいものです。
答えは簡単。「カネ(売上や収益)が欲しいから」でしかありません。
カネ儲け以外の目的で技術革新に心血を注ぐ企業がいるとしたら、そんなバカ企業に出資や融資をしてはいけません。
あなたが貸したカネは絶対に返ってこないでしょう。
私がいつも強調しているように、国家にとって最大の国富は、「生産力と供給力、科学技術力」、つまり、「人材(人財)」です。
そのままでは何の役にも立たない天然資源を、国民生活を豊かにする物品に転換できる能力、そうした有用な物品を国土全体に速やかに供給できる流通力こそが「国富」なのです。
我々は、生活水準を維持向上させるため、絶えず国富の増強に取り組まねばなりません。
国富の増強を支えるのは、企業の技術革新や学術研究機関らの基礎技術力の養成です。
しかし、技術革新や技術力をきちんと養成するためには、それらに応分の対価が支払われる必要があります。
カネも貰えないのに技術革新に勤しむ変わり者なんて、いませんからね。
牧野氏は、企業の技術革新こそ経済再生の要だと言いたいのでしょうが、
「技術革新のサイクルを回すのにカネは要らないの?」
「そのカネは、いったい何処から湧いてくるの?」
と問い詰めたいですね。
経済の基本を知らぬまま“技術革新”なんて言葉を軽々に使う素人エコノミストは、実体経済におけるカネ(貨幣)の役割にまったく無関心で困ります。
彼らには、
〇世の中にはカネを目的としない技術革新なんて存在しない。
〇民間経済主体がカネを出し渋る以上、政府や中央銀行が率先してカネを供給すべき。
という基本中の基本を踏まえたうえで、
「需要の下支えなくして供給なし。経済再生にとって重要な民間の技術革新を活性化するには、積極的な財政政策と金融政策により、実体経済に収益や所得に化けるカネを大量にバラ撒くのが最も合理的かつ効果的だ」と説教しておきましょう。